「僕の行く道」(新堂冬樹)

周囲とwin-winの関係を築きながらの大冒険

「僕の行く道」(新堂冬樹)双葉文庫

大志は写真でしか母を知らない。
母はずっとパリで修行中だからだ。
ある日、大志は
小豆島から発送された手紙と
母が写した写真を見つける。
パリにいるのではなかったのか?
大志は父親に内緒で
小豆島へと向かう決心をする…。

母親を訪ねての、
小学校3年生の大志の大冒険です。
小豆島がどこにあるかもよく分からず、
3千円あまりのお小遣いだけでの
果敢な挑戦です。

もちろん小学校3年生ですから、
周囲の助けが必要です。
近所の仲良しお兄さん・博士が、
小豆島までのルートを調べるとともに、
資金の調達の面倒も見てくれます。
新幹線の中で隣に座った
お姉さん・陽子が、
お昼のお弁当をごちそうしてくれます。
岡山駅と間違えて
新大阪駅で降りてしまっても、
たまたま知り合った同じ小学生の由美と
そのお母さんが支援してくれます。
台風のために港で足止めとなっても、
やはり偶然知り合った老人が
助けてくれます。

しかし、よくよく読むと、
大志が一方的に
助けられているのではありません。
陽子は恋人と別れて傷を負った心を
大志との出会いによって
癒やされているのです。
由美もまた離婚した父親との寂しさで
折れそうだった心に、
大志から勇気をもらっているのです。
老人にいたっては、
海へ身投げしようとしたところを
大志に止められ、
人生を見つめ直そうとしています。

最後には、大志の父親も、
母親代わりに
大志の面倒を見ていた叔母も、
すべてが大志の冒険から
幸せな気持ちになるのです。
そしてその中で大志が確実に
成長している姿が
はっきりと見えるのです。

小さな子どもが大人の助けを借りて
旅行したのであれば、
それほど大きな感動には
ならないでしょう。
しかし、大志は小学生でありながら、
周囲とwin-winの関係を築きながら
冒険を進めていくのです。
この点こそが本作品の読みどころです。
だから感動もひとしおなのです。

さて、太子の母はなぜ小豆島にいるのか?
父も叔母もなぜ嘘をついていたのか?
ぜひ読んで確かめてください。

数年前に本書と出会い、
これで3度目の再読です。
何度読んでも感動が薄まることなく
涙腺が刺激されてしまいます。
人前では絶対に
読むことのできない作品です。

中学校1年生に薦めたい一冊です。
本書から読書の楽しさを
知ってほしいと思います。

※新堂冬樹は
 ミステリーやハードボイルドの
 分野に作品が多く、本書は
 きわめて異色といえます。

(2019.7.24)

nak180さんによる写真ACからの写真

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